デザイナー

ボナ・フォルトゥーナがスタートしたのは、1995年。仙台の伊東さんという方から、お店をやりたいので商品を作って欲しいと言われ、作りだしたのがきっかけでした。バッグメーカーに勤務していた私ですが、退職後2年以上も水泳とお花に明け暮れていましたので、道具も場所も何もありません。了解したものの、さて、どうしようという感じでした。
お店のオープンは決まっていて、私に与えられた時間は約2カ月。たまたま近所に知人が、財布やシステム手帳を作るメーカーを経営していたので、その麻田さんという方に頼み込み、その会社にある机を一つ貸してもらうことになりました。包丁や打ち具、穴あけポンチなどの道具をはじめ、ミシンや革スキ機などを自由に使わせて頂きました。また、ヨーロッパからの輸入革などの最高級品を扱う革屋さんも快く取引して下さいました。
様々な方に助けられ仙台のお店のオープンの日の朝に、ようやく5本のサンプルが出来あがりました。朝10時までに、東京から仙台まで運ばなくてはなりません。夫の運転で東北道の追い越し車線をハラハラしながら走って行ったのを覚えています。
オープンの5分前にお店に到着。なんとか間に合いました。伊東さんが私たちの顔を見た途端、とても嬉しそうにしてくれたのをよく覚えています。間に合わなかったらどうしようと、心配されていたのだと思います。
約5坪くらいの小さなお店とはいえ、作ったバッグは5本しかありません。お祝いのお花がお店のほとんどを占めていました。しかも、作ったのはサンプルですから、その場で販売できる商品は一つもありません。たくさんの受注をいただきましたが、お客様は持って帰れる商品が一つもないことが、とても不思議なようでした。 『バッグ屋さんではなく、まるでお花屋さんみたいね』 ほとんどのお客様がそうおっしゃっていました。
東京に帰ると、ひたすら商品を作り続けました。毎朝4時か5時くらいまで、毎日毎日作り続けました。いま考えてみても、良く体がもったなあ、と思います。それが、ボナ・フォルトゥーナのスタートです。

image


ところで、「ボナ・フォルトゥーナ」とは、イタリア語で「あなたに幸運を…」という意味です。いろいろ考えて、この名前にしました。私も夫もミラノに住んでいた時期があり、やはりイタリア語の名前にしようということになりました。大好きな映画 『ローマの休日』 のワンシーンで、花屋のおじいさんが、お金を持っていないヘップバーンに対して、しょうがないなあと花を一輪プレゼントしながら 『ボナ・フォルトゥーナ!』 と言うのです。その時のヘップバーンの笑顔がとても印象的でした。使っていただいた方が、そんな笑顔になってほしいという気持ちを込めて付けた名前です。
取引していただいた小売店さんのなかには、 『舌を噛みそうだ』 といわれた方もいました。今では、いろいろな方に 『ボナ』 と呼ばれるようになりましたが、 確かに 『ボナ・フォルトゥーナ』 とすらすら言える人は、少ないかも知れませんね。

よく聞かれることに 『どんな感じでデザインするんですか?』 というのがあるのですが、実はお風呂に入っている時や寝ている時がとても多いのです。リラックスしている時がいいみたいで、忙しくしている時は、なーんにも思いつきません。
だから、いつもスケッチブックが近くにあり、いつでも描けるようにしています。枕元にも必ず置いています。描かないでそのまま寝てると、なんかすっきりしません。
でも、私も寝ているだけではないのです。お風呂もそうですが、好きな事をしているときには頭が働きます。料理をしたり、洗濯をしたり、アガサ・クリスティやシャーロック・ホームズを観たり、旅行に行ったり、写真を撮ったりとそんな事をしているととても良いみたいです。しかしながら、パソコンや携帯電話などの機械類と睨みあったり、車の運転をしたりしていると、どうもクリエイティブな気持ちにはなれません。向いていないことは、いつまでたってもやはり向いていないのです。

image


ボナをスタートしてから、限定品を含めると1200型以上デザインしてきました。最近困ったことに、シリーズ名がぱっと思い出せないのです。しかし、物忘れが激しいのは私だけではありません。他のスタッフの人たちも同じ病気にかかっていますので、みんなで 『あれの手紐はさあ、もっと短いほうがいいんじゃない?』 『ああ、あれね』 『やっぱり、あれはあのままがいいよ』 みんなプロですから、どうやら話は通じるのですが、結局名前を思い出せないままということがよくあります。
年3回の展示会を中心に新作をつくるのですが、新作に名前を付けるのも大変です。やはり、そのバッグにあった腑に落ちる名前をつけてあげたいので、いろいろ考えなくてはなりません。腑に落ちるというのがポイントなので、出来あがった商品の声を聞きながら名前を付けるのが普通なのですが、 『ミス・レモン』 というシリーズだけは少し違いました。
私は、アガサ・クリスティの 『名探偵ポワロ』 の大ファンです。 『ポワロ』 はイギリスを中心にヨーロッパ各地を舞台に1930年頃の時代を描いています。アール・ヌーボーがまだ色濃く残り、世の中はアール・デコにうつっていったそんな時代がとても興味深く、何度もなんどもDVDを繰り返し見ています。出演者も役にぴったりとはまっていて、ポワロは、まさにポワロという感じなのです。ポワロやヘイスティングも好きですが、なんといってもポワロの秘書の 『ミス・レモン』 が、おしゃれで、とてもキュート!!日本的な表現ですが、とても粋な感じなのです。このミス・レモンを観ているうちに、この人に持たせるならどんなバッグだろうと、想像力がかきたてられたのを覚えています。
これからも、楽しい気持ちでバッグをデザインしていきたいものです。


image

私たちは、 『創る』 会社です。 『創る』 事と 『革』 が大好きなスタッフが集まってくれています。使っていただける方にとって、個性を演出し、豊かな気持ちになるお手伝いが出来れば嬉しく思います。どうぞ、これからも 『ボナ』 を宜しくお願いします。

末筆ではありますが、創業のきっかけをいただいた仙台の伊東さんとメーカー社長の麻田さんをはじめ、関わり助けて下さっている全ての方に感謝します。


柏﨑 栄子